相続登記は、登記手続きの専門家である司法書士に依頼することができますが、本人が申請することも可能です。法務局のホームページには申請書の記載例が公開されており、登記手続案内(相談・要予約)も用意されています。
私自身、司法書士として活動する中で「自分で相続登記はできますか?」という質問を何度も受けてきましたし、「自分でできた!」という達成感のある声もあれば、「チャレンジしたけど、自分では難しくてできなかった」という声も聴きます。
相続登記は「書類が揃えば終わり」「登記が完了したら問題なし」という単純な手続ではありません。相続関係や不動産の状態によって難易度は大きく変わり、法律や税金を含め決断や方針を誤ると、将来の手続きに影響が及ぶ可能性があります。
この記事では、司法書士の実務の視点から、「どんな状況なら、自分でチャレンジする価値があるか」を整理します。
※末尾にも記載しておりますが、今回の共通点に多く該当したからといって、簡単にできる保証は一切なく、個人的には司法書士への相談と依頼を推奨しております。ひとつの目安としてご参照ください。
1. 結論:自分でチャレンジして「うまくいく人」の共通点
「相続関係と不動産関係が比較的シンプルで、相続人全員が少数かつ協力的で、平日に動く余裕があり、期限が切迫しておらず、情報収集や書類作成が苦にならない。」 この状況に近いほど、本人申請に挑戦してみる価値はあるかと考えます。
もちろん、すべてに該当しなくても完結できる方はたくさんいらっしゃるかと思います。現在はインターネットや書籍も充実しているためです。ただ、「書類作成が苦にならない」という基準も主観的ですし、ここでお伝えしたいのは、「あなたにとって、その時間と労力をかける価値があるのか」と「単なる書類作成や手続きではない」という視点をお伝えできればと思います。
以下の6つの目安を、ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
本人申請の「6つの目安」
① 相続関係がシンプルである
相続人が1名、または「配偶者と子」のみ等で、代襲相続(相続人が先に亡くなられた)や数次相続(遺産分割が完了する前に相続人が亡くなられた)がない。
【司法書士の視点】 安易に法定相続分通りに全員で共有してしまうと、将来、相続人の一人が認知症になった場合などに、売却手続きが極めて複雑化・困難化する可能性がありますので、相続関係がシンプルでも誰が何を相続するかについての決断は注意が必要です。
その他、相続関係が単純な場合でも、亡くなってから長期間放置していたような場合は必要書類が集まらない場合があり、添付書類がやや複雑になるケースもあります。
② 遺産分割の結論が固く、相続人の協力が得られる
誰が取得するか決まっており、実印の押印・印鑑証明書等を速やかに回収できること。また、書類の誤りや添付漏れが生じても、再対応に協力してもらえる関係性があることが重要です。
【司法書士の視点】何度も市役所に行ってもらうような行為を相続人の関係者にお願いすると、手続きがスムーズに進行しないだけではなく、関係性が悪くなってしまい協力してくれなくなる可能性があります。特に経済的なメリットがあるわけではなく手続きに協力しているだけの相続人がいる場合は注意が必要です。
③ 物件に「相続登記以外」の論点が少ない
古い抵当権の抹消、未登記建物の存在、農地等の追加論点がないこと。
【司法書士の視点】 問題ないと思っていても、土地の「私道部分」が遺産分割協議書から漏れており、後からハンコをもらい直すケースがあります。
一部の土地や建物には、改製不適合物件と言われる登記簿がコンピュータ化されていない不動産があります。こちらも私道と同様に注意が必要で、オンライン申請ができなかったり、登記識別情報が発行されないため権利証が発行されたりと別対応になります。
④ 平日の日中に動きやすい
法務局の登記手続案内は予約制で、平日のみです。申請後に記載ミスがあり、補正(修正)対応を含めると「平日に動けるか」が重要です。不動産の管轄により、法務局は異なりますので、お住まいの所在地によっては、管轄法務局までの往復だけで半日が終わることもあります。 ※なお、申請形態や状況により郵送やオンライン対応が可能な場合もあります。
【司法書士の視点】法務局の登記手続案内(予約制)を利用する場合、管轄法務局によりますが、数週間先しか空いていないような場合もあります。
⑤ 期限が差し迫っていない
売却予定や税制上の期限が近いほど、ミス1回の影響が大きくなります。例えば、売却の場合、買主が既に引っ越しの準備を進めているケースや、銀行のローンを利用するケースには多くの関係者に負担をかけてしまう可能性があります。なお、相続登記を申請しても、すぐに完了するわけではありません。早ければ数日で完了することもあれば、法務局が混雑している場合、1か月以上の期間を要する場合もあります。
【司法書士の視点】 「空き家の3,000万円特別控除」の適用には期限があります。売却を急ぐ局面で登記が遅れると、最終決済(引渡し)ができず、特例を逃すリスクが生じるため注意が必要です。例えば「空き家の3,000万円特別控除」には期限要件があります。空き家特別控除における「譲渡日」、原則として、買主へ不動産を引渡した日(最終決済日)です。売却を急ぐ局面で相続登記が遅れると、最終決済ができないため、注意が必要です。
⑥ 正確な作業や情報収集が得意
戸籍謄本の読み解き、遺産分割協議書の作成、申請方法や納税方法の調査などを、負担に感じず丁寧に進められる適性も大切です。
【司法書士の視点】改正により税金(登録免許税)が非課税になったり、添付書類が追加・削除されたりと最新の情報をしっかりと確認する必要があります。
まとめ:自力でチャレンジする価値がある人とは?
改めて整理すると、以下の条件を満たす方は本人申請に挑戦する価値があると思われます。
- 相続関係と物件がシンプルである
- 協力者が揃っており、関係性が良好である
- 平日の対応や、細かな書類作成に抵抗がない
- 情報収集や正確な書類作成に抵抗がない
一方で、「共有名義にすべきか迷いがある」「親族間の調整が大変」「売却期限が近い」「書類作成が不安」といった要素がある場合は、専門家を活用した方が結果としてスムーズになることも少なくありません。
まずは、ご自身の状況を冷静に俯瞰することから始めてみてください。
【司法書士の本音:まずは専門家に相談と見積依頼を】 司法書士が相続登記業務を扱う中で、上記で解説したような「一見、簡単そうに見える事案」でも、詳しく調べてみると複雑な論点が隠れていることがあります。最初は司法書士に依頼せずに進めていたが、難しいのであきらめて最終的に司法書士が対応したケースを何度も経験いたしました。
「相続登記は簡単だった。自分でできる。司法書士の費用がもったいない」という声をSNS等で聴くたびに、司法書士としては「それはたまたま、比較的簡単な状況で出来ただけであり、しかも失敗(私道漏れ等)していることすら、まだ気づいていないだけかもしれない。」というような気持ちになります。相続登記を業務として多く担当し、大変さや難しさも知っているからこそ、「相続登記は専門家でなくてもできる簡単な登記手続きだ」と主張する司法書士はほぼいないのではないでしょうか。
個人的には、信頼できそうな司法書士に相談し、見積もりを依頼してみることを推奨いたします。
本記事の内容は、公開日時点の法令・実務慣習に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。相続手続きは個別の事情により判断が異なるため、本記事の情報のみに基づいて行われた判断や行動によって生じた結果について、当サイトおよび監修者は一切の責任を負いません。重要な判断を伴う手続きの際は、必ず司法書士等の専門家へ個別にご相談ください。




