【専門家監修】当サイトは税理士・司法書士・行政書士・宅建士の監修のもと、正しい相続・売却情報を発信しています。

相続した「いらない土地」を国に返せる「相続土地国庫帰属制度」の基本と現状(令和7年12月末時点)を解説


1. はじめに:増える「土地の相続」の悩み

これまで、日本の法律には「相続した土地を自発的に手放す(放棄する)」という明確なルールがありませんでした。その結果、引き取り手のない土地が名義変更されないまま、放置され続け、九州の面積を超えるほどの「所有者不明土地問題」が深刻な社会課題となりました。

これを解決するため、近年、様々な法律が制定・施行されています。

  • 相続土地国庫帰属制度(令和5年4月27日施行) 相続したものの、どうしても管理ができない土地の「受け皿」として、一定の条件のもとで国が引き取る仕組みが創設されました。
  • 相続登記の義務化(令和6年4月1日施行) 相続した土地を名義変更せず放置することが禁止されました。正当な理由なく怠れば、過料の対象となります。
  • 住所・氏名変更登記の義務化(令和8年4月1日施行予定) 引越しや結婚等により住所・氏名が変更された場合、不動産登記の変更申請が義務付けられます。これも所有者不明土地の発生を防ぐための重要な柱です。

つまり、これら制度は「手放す手段を与える(権利)」、「土地の名義変更を放置させない(義務)」、「住所・氏名の変更も放置させない(義務)」仕組みにすることで所在不明土地問題を解決しようとするものです。本記事では、法務省が発表した相続土地国庫帰属制度基本と「令和7年12月末時点」の最新実績データをもとに、この制度のリアルな活用状況を解説します。

2. 制度の基本:手続きの流れ、必要書類、費用は?

相続土地国庫帰属制度は、「申請したら終わり」ではなく、法務局による厳格な審査を経て完了します。まず、大事な点はどんな土地も引き取ってくれるわけではないという点です。国が引き取ることができない土地の要件は多岐にわたりますが、法務省の表現を借りれば、その核心は「通常の管理又は処分を阻害する要因がないこと」に集約されます。これを、一般の方向けに分かりやすく言い換えると、要するに、「国が引き継いだ後、税金を使って追加の工事や交渉をしなくて済む、手のかからない土地」ということです。

引き取れない土地「5つのチェック」
🏠 建物・忘れ物がある 即却下
  • 廃屋、物置、納屋などが建っている
  • 放置車両、古い農機具、資材が置かれている
  • 庭石や灯籠など、管理の邪魔になるものがある
📐 境界・権利が複雑 即却下
  • 隣の土地との境界がはっきり決まっていない
  • 所有権をめぐって争いや裁判中である
  • 銀行の担保(抵当権)などがついたまま
🕳️ 地面の下に問題がある 不承認
  • 土壌汚染がある(有害物質など)
  • 産業廃棄物や古い水道管などが埋まっている
⚠️ 土地そのものが危険 不承認
  • 急な崖(30度以上・高さ5m以上)がある
  • 崩落の危険や、周囲に被害を及ぼす恐れがある
🚶 誰かが使っている 不承認
  • 近所の人の通り道(私道)として使われている
  • 水路、ため池、墓地などの用途になっている

① 手続きの流れ(完了まで数か月〜1年程度)

いきなり書類を出すのではなく、まずは「相談」からスタートするのが公式な手順です。

  1. 事前相談: 管轄の法務局で対面または電話・オンラインで行います(予約制)。
  2. 承認申請: 申請書類を提出し、審査手数料を納付します。
  3. 書面審査・実地調査: 法務局の担当者が書類を確認し、実際に現地へ足を運んで土地の状態を調査します。
  4. 承認・負担金通知: 基準をクリアすれば承認され、納めるべき負担金の額が通知されます。
  5. 負担金の納付: 通知から30日以内に納付します。
  6. 帰属完了: 国への所有権移転登記が行われ、手続き完了です。

② 必要書類(主なもの)

添付書類
(必須書面)
(1)承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
(2)承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真
(3)承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真
(4)承認申請者の印鑑証明書
(【遺贈】によって土地を取得した相続人の必須書面)
(5)相続人が遺贈を受けたことを証する書面
(承認申請者と所有権登記名義人が異なる場合の必須書面)
(6)土地の所有権登記名義人(又は表題部所有者)から相続又は一般承継があったことを証する書面

(承認申請者と所有権登記名義人は同一だが、登記記録に記載されている氏名又は住所に変更がある場合の必須書面)
(7)氏名又は住所の変更があったことを証する書面

(任意書面)
固定資産評価証明書
承認申請土地の境界等に関する資料

③ 費用(2026年現在の基準)

「タダで手放せる」わけではなく、実費としての手数料と、将来の管理費を一部負担します。

宅地・農地・雑種地などは原則20万円ですが、市街地の宅地や、土地改良区内の農地、森林などは面積に応じて加算される場合があります。

審査手数料(前払い):1筆につき 14,000円

審査結果にかかわらず、返金はされません。

負担金(後払い):原則 20万円 ※政令で分類している種目や、面積に応じた算定が必要となる地域があります。

承認後に納める「10年分の管理費」相当額です。

3. 最新の運用状況(令和7年12月31日時点)

法務省が公開した最新の速報値は下記のとおりです。

  • 申請数:4,912件(月間200件ペースで増加中)
  • 帰属数:2,327件(申請者の約半数が解決済み)
  • 地目別: 「田・畑」が約4割、「宅地」が約3.5割。地方の農地と空き家跡地がメインです。

4. 審査を通過するための「関門」を知る

最新データから、なぜ「完了」に至らなかったのかを分析します。

「却下・不承認」はわずか3%

基準は厳しいと言われますが、実際に法務局から「拒絶」されたのはわずか153件。

  • 最も多い理由は「地上に有体物(車・資材など)がある」こと。次に多いのは「追加整備が必要な森林」や「境界不明」です。 これらは、事前に情報収集や測量をしていれば防げた可能性があるものです。

「取下げ(861件)」に隠された真実

注目すべきは「取下げ」の多さです。

  • 「測量代や費用が予想外にかかることが分かり、断念した」
  • 「申請中に隣地所有者から買いたいと申し出があった(解決)」 など、申請後のコスト判断や環境の変化が理由です。

5. まとめ:「事前準備」とその他の選択肢

法務省のデータからも分かる通り、この制度は「事前の準備」が失敗しないための鍵です。

そして、この「相続土地国庫帰属制度」は有効な解決策のひとつですが、お金を払って国に引き取ってもらう「最終手段」です。まずは「プラス(収益)」や「低コスト」で解決できる順に検討しましょう。

司法書士が考える「土地解消」の優先順位
STEP 1 市場での売却(プラスにする)
地元の不動産会社や訳あり不動産にも対応する買取企業へ打診します。
⚠️ ネットの一括査定に注意!
大量の営業電話がくる可能性があります。気にならないひとは問題ありません。
▼
STEP 2 身近な譲渡(低コストで解決)
隣地所有者、町内会・自治会、消防団などへ打診。寄付より受理されやすい場合があります。
【注意】民間の有料引き取りサービス
「有償でどんな土地でも引き取ります」と謳う業者と取引する場合は注意が必要です。高額な手数料を払ったのに登記が放置される等のトラブルが想定されます。宅地建物取引主任者の国家資格も不要なビジネスであるため、国土交通省が調査報告を発表し、注視しています。
▼
STEP 3 公的機関への寄付(自治体)
市区町村へ相談。公共利用の計画があれば受理されますが、ハードルは高いのが現状です。
▼
STEP 4 相続土地国庫帰属制度または相続放棄
要件を整え、国へ返還。「管理を阻害する要因(建物・境界不明等)」がない状態にしてからバトンを渡します。その他の財産状況や期限を考慮したうえで相続放棄という選択肢も。

監修者 飯島亮介
監修:飯島 亮介
保有資格 司法書士 / FP(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)
2011年から大阪で相続・成年後見業務を中心に活動する司法書士。累計100件以上の後見業務に携わった豊富な経験を活かし、複雑で分かりにくい法的手続きを、専門用語を使わず丁寧に解説します。

⚠️ 免責事項

本記事の内容は、公開日時点の法令・実務慣習に基づいた一般的な情報の提供を目的としています。相続手続きは個別の事情により判断が異なるため、本記事の情報のみに基づいて行われた判断や行動によって生じた結果について、当サイトおよび監修者は一切の責任を負いません。重要な判断を伴う手続きの際は、必ず司法書士等の専門家へ個別にご相談ください。